おやすみ図書25冊目『たのしい川べ』ケネス・グレーアム

おやすみ図書の25冊目は、まさに「たのしい川べ」なこちらの本に致しましょう。

何が良いかって、まずこの邦題です。
ど直近って本当に良いなあ。だってこの本は本当に「たのしい川べ」の話なんですもの。

静かな午前、ゆっくりとした日の午後、寝入り前のうっとりした時間、その他いつでも。私たちはこの本を開くといつでも「たのしい川べ」に行くことができます。
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『たのしい川べ 』
ケネス・グレーアム著
石井桃子
岩波少年文庫

ずっと地下の穴の中のちいさなおうちで暮らしていたモグラ君は、ある春の日に誘われるようにして地上に出て、生まれてはじめて川を見ます。美しい水の話すことばや川べの風景に夢中になっている時、川べに暮らすネズミ君と出会い、友達に。そのままふたりでネズミ君のおうちで一緒に暮らすことになるというのが物語のはじまりです。「このふたり距離詰めるの早すぎない?」と思わなくもないですが、それもまたよし。誰かと誰かが仲良くなるスピードに決まりはありませんからね!

ふたりの暮らしや会話、心地よい家、四季折々の川べの様子、周辺に生きる動物たちの暮らしや動物同士のマナーについて。森の動物との付き合い方について。
ひとつひとつがとても楽しい。大袈裟な描写は無いのに胸に迫るような感動があるのは、ロンドン近くのテムズ河の河畔を生涯愛したという作者のケネス・グレーアムさんの心がそのまま文章にあらわれているからなんだろうなと思います。

各章それぞれが面白く、また景色の描写も印象的ですから、一度通しで読んだ次からは、その日に見たい風景を読み返すという読み方も楽しそうです。そう、読み返す為にあるような本だと思います。

この本にでてくるキャラクター達は、それぞれがキャラ立ちしていて面白いです。
主人公のモグラ君、ネズミ君はもちろん、サザエさんの「中島くん」ポジションとでもいうべきカワウソ君(お子さんが可愛い)や、頼りになりすぎる兄貴分のアナグマ君などそれぞれ大好きになってしまいます。
そしてなんといっても忘れてならないのは、もうひとりの主人公ともいえるヒキガエル君の存在でしょう。

作者のケネス・グレーアムさんの息子君にキャラを寄せたという「ヒキガエル君」の出てくる章は盛り上がります。
先祖代々お金持ちのヒキガエル君は、明るく親切な性格ですがその半面、うぬぼれ屋で自慢が大好き、努力が嫌いで新しいものにすぐ手を出しては失敗を繰り返すという、どうしようもない所があります。この性格のせいで大変な目にあい、大冒険を余儀なくされることになるのです。
このヒキガエル君のお話は「たのしい川べ」の外伝?のような立ち位置で定期的に挟まれるのですが、ダメな奴なのに可愛らしいヒキガエル君の冒険はとても面白く、本編と繋がりクライマックスにうねる流れも大いに盛り上がります。

ヒキガエル君の成長物語は子供は勿論、子供から大人になったことがある人たちにとっても沁みるいい話なので是非おたのしみに。


それからこの本もーー岩波少年文庫はどれもですがーーあとがきが面白いです。
作者の生い立ちや物語が生まれる背景などを丁寧に解説する内容ですが、言葉にあたたかみと尊敬があり、物語や作者への敬愛がひしひしと伝わってきます。それにすごく詳細に書いてあって面白い。読み応えがあります。こんなあとがきを読めるだなんて、なんて贅沢で幸せな事でしょうか。

岩波少年文庫のシリーズやその関連図書はとても面白く、またおやすみ前の読書に最高なので、また時々このブログで書くことでしょう。