おやすみ図書の23冊目は、正岡子規研究家であり俳人でもあるという著者のこちらの本にいたします。
おやすみ前にもおすすめですし、ちょっと一休みしたい時、甘いものをつまみながらこの本を読むのなんていうのもおすすめです。
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『子規のココア・漱石のカステラ』
坪内稔典
NHK出版
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三月の甘納豆のうふふふふ
でお馴染みの俳人であり正岡子規研究家でもある坪内稔典(ツボウチ・トシノリ)さん、通称《ネンテンさん》によるユニークな随筆本。
正岡子規や夏目漱石の俳句や手紙、エピソードを紹介しつつ、そこに連想されるご自身の日常の事々を面白おかしく紹介する、といった著者ならではの内容の、ほのぼの楽しめるエッセイ本です。
《ネンテンさん》はこの二人のことが心底好きで、敬愛と共に時間を超えた仲間意識があるのでしょう。意識的なのか無意識なのか、ご自身を2人と同列で語っていて、それがこの本に不思議な味わいを与えています。
あまりにも《ネンテンさん》のエッセイと子規と漱石との境界が馴染んでいるせいで、ふたつの間に確かにあるはずの時間軸が同じに感じ始めるのです。むしろ明治の文豪二人の方が若々しく思えるのが可笑しい。二人共若くして亡くなっているので当然といえば当然なのですが、変な感じでうふふと思います。
さて、
《ネンテンさん》の紹介してくれる二人の話はとても詳しく面白く、子規や漱石の姿がまざまざと見えるようです。また紹介されている文章が、彼らの素を伝えてくれて興味深い。
2人の手紙のやり取りで、互いを「妾」「郎君」などと呼び合っていたエピソードなんかも傑作です。
俳句でも手紙でも日記でも、彼らの小気味良い言葉の選び方は楽しく、また憎まれ口をきくように、少し笑いを入れて愛や寂寥(せきりょう)を伝える彼らの言葉は、そのものズバリをあまり言わないにも関わらず、まっすぐ素直にその心が伝わってくるようです。そしてその心のなんて面白く気持ちの良いことでしょう。
そしてそんな風に思っていると、次のページでは《ネンテンさん》のエピソードでズッコケています。《ネンテンさん》のエピソードは面白チャーミングな上に、定期的に登場するご家族のキャラクターも楽しい。
この3人を中心にコンパクトに小話が並んだ本書の形態は、昼間の一休みにもちょうど良いですし、おやすみ前にもちょうどいいと思います。
本の表紙の絵柄がまさにこの本の特徴をとらえています。心和む、良い本です。