無類に愉快 『園芸家12ヶ月』 カレル・チャペック

「おやすみ図書」の2冊目は、みんな大好きカレル・チャペックの、愛さずにはいられないこの本です。
私はユーモアのある表現が大好きですが、この本はほぼ全てのページがユーモアでできていると言えるでしょう。しかもそれらは愛に溢れていて、読むと愉快で元気がでます。
こんなにチャーミングな本に出会えてよかったなあと、読み返す度に思う本です。


……………………………………………………
『園芸家12ヶ月』
カレル・チャペック 小松太郎 訳
(中公文庫)



カレル・チャペックの病膏盲(やまいこうこう)にいった園芸マニアっぷりが遺憾なく発揮された、園芸愛溢れる一冊。

この本はまず、庭をつくる最初の第一歩からはじまります。
そこから随分長く… いかに庭に水をまくことが大変かということから、庭作りの苦労が延々と描かれます。その途切れを知らない様子に、読者は(笑いをこらえつつ)ビックリさせられるのです。

水をまくホースがいかに陰険な動物であるか、なぜ高級の芝草の種からこんなふさふささた棘だらけの雑草がはえるのか、ふしぎな物質の変化により、路に敷いた廃物が粘り気のある粘土に変わってしまった、日々雑草をまじめに抜いている、その一足ごとに未来の芝生は、天地創造の第一日目であるかのような、はだいろの茶色の土に変わっている。
そこから更に必死になって庭と取っ組み合いをして、あっちにもこっちにも目をやっている内に、ふと目をやるといつの間にか、はじめての小さな若葉が出ているのです。

そしてこう続きます。

「ものの考え方がすっかり変わってしまう。雨が降ると、庭に雨が降っている、と思う。日がさしても、たださしているのではない、庭にさしているのだ。」

そして『園芸家12ヶ月』は幕をあけます。

『園芸家12ヶ月』は万事この調子で、一月ごとの園芸家の様子を描いたエッセイとも小説ともわからぬ本です。

その全ての憎まれ口や愛情が、ユーモアたっぷりの表現で語られていて、どのページを読んでも幸せで楽しい。
驚く程植物の固有名詞が多くて、ひとつひとつの花への熱量がいちいちすごい所も思わず笑ってしまいます。

そしてもうひとつ、
「この本は翻訳された本なのに、なんだか原文かと思う程、言葉に熱量があるなあ」と思っていたら、この本の翻訳者・小松太郎さんも中々の園芸家マニアなのだそうです。
もしかしたら小松さんもチャペックの言葉と共に、喜んだり身悶えしながら書いていたんじゃないかしら。
(もちろん素晴らしい翻訳者だからこそ、こんな風に思えるのでしょう!)
一番最初のページからあとがきまで、心楽しい、素敵な本です。


幸せな夢を見たい夜に、ぜひおススメです。