美しい夢のお供に 『パパ・ユーア・クレイジー』 ウィリアム・サローヤン

「おやすみ図書」の3冊目は、ウィリアム・ サローヤンの本です。

今回は、私がサローヤンに出会った記念すべき1冊目でもある、美しいこの本にします。
翻訳は伊丹十三
私はこの本を読んで初めて
「人間は言葉で痺れるんだ」
という事を知りました。
言葉が素敵で身体が痺れる事って、あるんですね。鼻や肩の辺りが本当にビリビリしたので驚きました。

そんなこの本ですが、ユーモアがあってさっぱりとした、とても素敵な物語です。


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『パパ・ユーア・クレイジー
ウィリアム・サローヤン 伊丹十三
(新潮文庫)


離婚した両親の母親側に引き取られ、おいしい食事を食べ、 快適なベッドで寝ていた主人公の男の子は、 それでも色んな事にうんざりな日々を送っています。うるさい妹にも、学校にも。
そんな時パパの提案で、男の子はしばらくパパとカリフォルニアで暮らす事になる所から物語は始まります。

パパは文筆家で最近は仕事がうまくいっているとはいえず、 お金がありません。従って暮らしは質素。豆料理だとか、海岸で取ってきたムール貝だとかを調理して食べます。きれいなテーブルクロスを使わず、食事時にはニュースペーパーをテーブルに敷き、 食べ終わると丸めて捨てます。

そんなパパの色彩の乏しい暮らしぶりは、男の子の目線を通して知的で簡潔、シックな暮らしとして描かれていきます。実際パパは知的でとてもチャーミングな人物です。

男の子はパパの事やパパとの暮らしについての全てを自慢に誇らし く感じていて、読んでいるだけで、 その日々の美しさが心に沁みます。
波打ち際の描写などは、大して詳しい描写はないのに、風景や香りまで分かる様に感じます。

男の子は物語の最後のページまで、そんなとても良い日々を送ります。私たちが本を閉じた後もきっとそんな日々は続き、男の子はいつか青年になるのでしょう。

美しい夢のお供に、おススメです。