『三島由紀夫 レター教室』 三島由紀夫

おやすみ図書10冊目は、手紙の文例集・お手本でもあり小説にもなっているという、ユニークなこちらの本にいたしましょう。

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三島由紀夫 レター教室』
三島由紀夫
ちくま文庫


このレター教室は、すこし風変わりな形式をとります。
5人の登場人物がかわるがわる書く手紙をお目にかけ、それがそのまま、文例ともなり、お手本ともなるという具合にしたいと思います。

という冒頭の文章から始まる、三島由紀夫の小説形式の「レター教室」です。
この本で繰り広げられるのは職業も年齢も異なる5人の登場人物の手紙のやりとりのみ。私たちはこの人物たちの文通を通してストーリーを楽しみながら「手紙の書き方」を学ぶという具合になります。
とはいえ作者は三島由紀夫
当たらず障らずの毒気のないテキストであるはずもありません。
私たちは中年たちの手紙を読んでは「屈折しているなあ」と呆れたり、若者たちの手紙を読んでは理想と現実との差にがっかりします。それから愉快な気持ちになったり、我が身を振り返って半目をとじようと思ったりします。


さて、「文例」という話では、この人たちのお手紙は本当に表情豊かで楽しいです。
憎まれ口な文面は、相手を楽しませるちょっとした遊びであるという事も学べますし、好きでもない相手からもらった手紙でも、真心が通じれば宝物になる事がある事も知ります。
とにかくここに出てくるお手紙は、読ませ方が魅力的でうまいんです。そしてお返しの手紙もとてもうまい。煩悩は深いけど、なんてセンスのいい5人なんだ。

文例に出てくる5人は間違っても心清らかな人物ではありませんが、時々変に相手に肩入れしたり、純情になったりする所があって、どんなに意地悪を仕掛けていても、冷たくなりきれない所があります。隙があって別の人につけ込まれたり、なのにそれがきっかけで仲良くなってしまったり。いつでも何となく根明なムードが漂っています。

私たちはこのお話が「文例集」という事を忘れて楽しんでしまいますが、本を閉じた後、
こんな楽しい手紙を出したいし、もらってみたいな。
そう思ってワクワクしてしまう事でしょう。
もちろんその時は、この本のような邪なお手紙ではなく、でもこんな風に豊かで楽しく。
昔の人って本当にこんなに表情豊かにお手紙を書いたのかしら。それとも三島由紀夫だからこその文章なのかしら。

お布団の中でそんな事を思っている内に、私たちはきっと、お手紙を書きたい相手の事を考えながら眠りにつくのです。


さて「文例」という形で描かれた5人の物語はどんどん気を抜けない展開になっていきます。
どう控えめに言っても最高に面白いので、是非ご自身でご確認くださいね。