『一千一秒物語』 稲垣足穂

『星を賣る店』が16冊目でしたので、 おやすみ図書の17冊目は稲垣足穂の『一千一秒物語』に致します。

(『星を賣る店』というタイトルは、稲垣足穂の同タイトルが元ネタなのです。不思議で透明感のある短いお話で、世界観に惹きこまれます)

 

一千一秒物語』は稲垣足穂の処女作品でもあり、代表作と言われている作品です。

文庫本では表題作の他、『黄漠奇聞』『チョコレット』『天体嗜好性』『星を賣る店』『弥勒』『彼等』『美のはかなさ』 『A感覚とV感覚』の全9編が収録されています。

稲垣足穂の事は話しだすと長くなりそうですので、ここでは表題作である『一千一秒物語』の話だけしようと思います。

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一千一秒物語稲垣足穂 著 新潮文庫

一千一秒物語』はとても短いお話がたくさん集まってひとつの作品になっているおはなしです。

まるでアラビアンナイト(一千一夜物語)を思わせるタイトルですが、 冷静に考えると1001秒なので20分にも満たない時間ですね。

その冗談みたいな儚い時間設定がじわじわ面白いです。

一千一秒物語』の主な登場人物はお月様、お星様、ほうき星などで、彼らは空にいたり、カフェーで喋っていたりします。

簡潔な文章は物語の夜に透明感を与え、とても美しい予感のするお話なのですが

美しさを予感をさせておいて、 平気で偽物のブリキの月が空に浮かんでいたりするので油断ならないのがこの世界観です。

それにお月様もお星様も、ほとんどの話で喧嘩をします。

しかも、壁に頭を打ち付けたり、ピストルで撃ちあったりと物騒なかたちで。(カフェーで銃撃戦もしていた)

でも、一話がとても短く独立しているため、殺し合った次の話では早速蘇って『一千一秒物語』が続くのです。

洒落た装いの星々が喧嘩ばかりする乾いた世界観なのかと思いきや幻想的なおはなしも多く、読み終わると美しい印象ばかりが残り、目の奥で星たちの輝きが見えるような気すらします。

本のページをめくるごとに感覚を狂わされた挙げ句、本の中からポイッと吐き出されてしまう様な、物語に読み手が全く大切にされていない感じがすごい、それでいて魅力的な不思議な作品です。

私たちは手の届かない美しいものにからかわれた後、少し気だるくなって眠る事でしょう。

 

ではグッドナイト! お寝みなさい。 今晩のあなたの夢はきっといつもとは違うでしょう。