おやすみ図書20冊目『ポエトリー・ドッグス』 斉藤倫

 

 おやすみ図書の20冊目はこちらの本にいたします。

静かに読んでも良いけど、この本なら音読してもいいかもしれません。

 

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『ポエトリー・ドッグス』

斉藤倫

講談社

ふらりと3軒目に入ったバーには犬のバーテンダーがいて、上手にお酒を作ってくれます。主人公は犬のバーテンダーははじめてだと思いますが、味がたしかならとやかくいうすじあいもないなと思い、腰を落ち着けます。

ということで主人公「ぼく」と犬のマスターの、バーでの会話をお話にした本。

ちょっと面白いのが、このバーはつきだしにナッツなどではなく詩を出すのです。

おまかせで、とお願いすると(そもそも「ぼく」は詩といわれましても、と思っています)マスターは季節やオーダーされたお酒や会話を元に、詩を選んでくれます。

そして「ぼく」は「よく分からないなあ」と詩を読みながら「こういう事ですかね?」「そういえば」とマスターと話を膨らませて、思考を詩に溶かしていくのです。

 

そもそも「ぼく」は酔っているので、その時点で少し思考が溶けているというか、ふにゃふにゃしています。

何だかまどろみがこちらにまでうつりそう。読んでいるとふわふわしてきてお布団の中にいるみたいな気持ちになります。

マスターは犬で、つきだしに詩を出すようなお店の割りに、意外と人間の気持ちに寄り添っていません。その距離感も絶妙です。

主人公との会話の中で「そんなこと犬に聞かれてましても」という反応をする所が定期的にあり、「ぼく」がええーと思っているのが笑えます。

マスターが泣きそうな気持ちの主人公の涙をわざと決壊させるような詩をスンと出し、もろにくらって涙腺崩壊した「ぼく」に「よくもこんな」と恨み節を言われても犬らしい顔でスンとしているシーンなんかもあり、ニヤニヤしてしまいます。この2人の感じも心地よいのです。

そういうバーでのやり取りを一夜、二夜、と重ねて十数夜まで続いていきます。

 

最後に紹介された詩を「ぼく」と共に読み、最後のページまで読み終わった後、ああ、これらすべての夜は必要だったんだなと思いました。

 

繰り返し読み返したくなる本です。

そしてもしこの本を読んだ友人がいれば「どの文章が刺さった?」と本を繰りながら語り合いたくなる本です。いくらでも出てきて、話は尽きなくなるでしょう。

私はこの本に出会えてとても嬉しいと思っています。

読了後、心に春が来たみたいだな、と思いました。